N3437BM-28
sduhcfiu
23:契約


ノーゴンの背に乗って、僕らは王宮を脱出しリーズオリアの北端の、とある鉱山の前で地上に降りた。

「こちらです。ここで、お二方に見て頂きたいものがございます」

「……ここは」

「リーズオリア王国の北端、ヴェクトーラ旧モル鉱山です。ここに妖精事件の真相があります」

僕らはミネさんについて行き、その鉱山の中へ入っていった。

僕が息を飲んだのは、鉱山の奥の空間が、見た事も無い程見事な“工場”であったからだ。
多くの天秤やフラomega アンティーク
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スコ、試験管などが無機質に並べられ、大きなミキサーの様な機械まであり、金属製の釜が並べられている。
見覚えのある四角い、真っ黒の箱が、壁の様に四方八方に積み上げられている。ベルルが最初に気づいた。

「旦那様……あの箱……」

「ああ。あれは前に見た事があるね。妖精を捕える為の箱だ」

僕はその箱に近づき、コンコンと叩いてみる。
硬質なもので出来ているようだが。

「まさか、この中に妖精たちが捕えられてるなんて事……」

「いえ……既にその中には居ないかと。見てください。あのベルトコンベアに黒い箱ごと乗せられ、途中の装置により箱を開けられ、妖精はミキサーの中へつめこまれます。その後魔法薬をふりかけられミキサーによってかき混ぜられながら、変化の魔法式を組み込まれるのです。きっともう、捕えられた妖精は皆ゼリーにされてしまっています」

彼女は「こちらへ」と、僕らをミキサーの方へ連れて行った。
中には既に、妖精ゼリーは無い。

「この日、見張りや作業員がほとんど居ないのは何故かわかりますか?」

「……ね、年末だからか?」

「……」

冗談は軽くスルーされ、ミネさんは続けた。

「今、作業員は総出で、ゼリーを依頼主の所へ運んでいるのですよ。ですから今こそ、あなた方をお連れしたのです」

「……依頼主?」

「このクライアントと言うのは“魔界”に関係する人物です。魔獣が王宮に攻撃をしかけてきたのも、妖精ゼリーを大量に魔界に持ち帰る、その隙間を作る為です。今頃きっと、ここで製造されたゼリーが、沢山魔界へ持ち帰られているのでしょう。王宮は魔獣襲来の件に手一杯で、気づく事すら無いかもしれませんけど」

ミネさんの言葉は淡白であった。まるで、王宮自体にはさほど興味が無いと言う様に。

ベルルが少しだけ、僕の腕を握る力を強めた気がした。
魔界、と言う言葉に反応したのだろうか。





その時、突然大きな落雷の音がした。僕もベルルも、ビクリと反応し息を飲む。
ミネさんが「まさかもうっ」と焦りの表情でこの空間の天井を見上げ、僕らの前に立つ。

何やら異国の呪文をぶつぶつと呟いて、肩にとまっていたノーゴンを人型の姿に変化させた。
浅黒い肌をした、背の高い男性の姿だ。

「ミネ様、スペリウス接近中です」

「分かっています。ノーゴン、グラシス様とベルル様をお守りして。お前なら出来るでしょう」

「し、しかしミネ様は……」

ノーゴンは戸惑いつつも、ミネさんに視線を送られ「かしこまりました」と。再び小さなフクロウの姿になって、僕とベルルの目の前を羽ばたく。

「お二方とも、横の坑道から逃げてください!!」

「で、でも」

「グラシス様、どうか、どうかベルル様を……っ」

「……ミネさん」

ミネさんだけここに残ろうとしていた様で、僕は戸惑う。
ベルルが「駄目よ!!」と叫んだ。

「“おミネちゃん”何をしようとしているの!? 危ない事があるのなら、逃げないと駄目よ!!」

「………」

おミネちゃん?
ベルルの口から出た名に、ミネさんはピクリと反応して、驚いた様子で、どこか遠い記憶を見ている様な瞳の色をしていた。

「おい、ミネ!! スペリウスからは逃げられないぞ!!」

「サンドリア様」

サンドリアさんがミネさんの肩を引いて、キッと表情を引き締める。

「だけど、まだ諦めるな。“姉様”が居る」

サンドリアさんはベルルの側に寄って、彼女の手を取り、訴えた。

「ベルル様、“奴”はきっと、俺たちを見つけてしまったら全員殺すでしょう。スペリウスは大魔獣の裏切り者だ。旧魔王様を裏切った」

その言葉に、ベルルは「え…」と戸惑いの表情をいっそう不安げにして、胸元に手を当て混乱しているようだった。
後ろの僕に力無くもたれかかり、瞳を大きく揺らしている。

それでもサンドリアさんは続けた。

「ベルル様、姉様を召喚してください!! 俺が時間を稼ぎますから!!」

「サ、サンドリアさん、何を」

僕はベルルの代わりに、サンドリアさんにどういう事か問おうとした。しかしキツく睨まれる。

「お前……っ、お前ベルル様の旦那様なんだろう!? ベルル様を絶対に守れ!! 何が何でも、姉様を召喚するんだ」

必死な訴えに、僕は事態が深刻なのだと嫌でも悟る。
僕は「分かっています」と答え、ベルルに向き直った。

「大丈夫か? ベルル、しっかりするんだ」

心ここにあらずと言う様子だったベルルの肩を揺さぶって、彼女の意識を自分に向ける。
ベルルは声を震わせ、「旦那様……」とか弱く呟いた。その様子が痛々しい。

ああ、何で彼女の力を頼るしか、この場を凌ぐ事が出来ないんだろう。

「分かっているわ、旦那様。ロクちゃんを……呼んでみる」

ベルルはぐっと表情を引き締め、震える人差し指を前に突き出した。

さっきから、鉱山道を大きな獣がズシンズシンと、こちらに向かって来ている音がする。
音は確実に近くなり、その度に雷の落ちる様な衝撃が走る。

パラパラと、この空間の頭上から砕けた石が落ちてくる。
ベルルは深呼吸して、宙に六角形を描こうとした。

「ロ……ロクちゃん……お願い、来て……っ」

ベルルが、六角形の最後の一本を描こうとしたとき、バチバチとした電撃が空間中に広がり、僕らはベルルの召喚を邪魔され弾き飛んだ。

「きゃっ」

僕はベルルを庇い、彼女を抱えたまま倒れる。

「大丈夫ですか!?」

小フクロウ姿のノーゴンさんが、僕らの手前に降り立ち、追加で襲ってきた電撃を払った。

「ベルル、怪我をしていないかい?」

「え、ええ。旦那様……っ、でも……ロクちゃんを」

ベルルは召喚が失敗し、口元を震わせた。
もしやと思い彼女の手を取ってみると、やはりベルルの指が酷く傷つき、血がだらだらと流れている。

「ベルル……」

痛々しく泣く彼女を抱き締めた。
やはりまだ、彼女に最強の大魔獣を呼び出すのは不可能なのだ。



ズシン……ズシン……


皆が身構え、やってくるその足音に、息を飲んだ。
一度も対面した事が無い雷を操る魔獣に、何故このような言い様の無い恐れを抱けるのか。

僕以外の者が皆、信じられない程恐れているからだ。

ビリビリと周囲に細かな紫電を散らし、その魔獣は現れた。
小さな電撃が周囲の岩を削りながら、偉大な大魔獣の前方を妨げるものの無い様に。

「……虎」

それは、大きな虎の様に見えた。
白の様な金色の様な、煌煌と輝く毛並み。黒い模様が雷の様に思える。目の前の大魔獣が特別である事は、見てすぐに分かった。
この虎に睨まれ、僕もベルルも体を縛られた様に動けない。


「出たなスペリウス……」

サンドリアさんは牡鹿の姿になって、その角を青と白のきらきらとした結晶の様に輝かせる。

大虎はただ吠えただけだ。それだけでとてつもなく恐ろしい気分になる。
ベルルはガタガタと震え、僕の腕の中で、血まみれの指を握りしめていた。

無数の雷が横の岩壁をむち打つ様に走り、地響きがした。
体に大きな衝撃と共に、僕もまたベルルを抱き締めたまま、目を閉じた。










ハッと気がついた時、僕とベルルはドーム型の水の結界に守られていた。
きっとサンドリアさんのものだろう。その結界の上には、いくつもの黒い箱と岩が重なっている。

あの大虎の雷で、積み上げられていた黒い箱は倒れ、天井や横の岩が崩れ落ちたのだ。
暗くとも色々なものが目で確認出来るのは、きっとミネさんの魔法がまだ効いているのだ。

「……ベルル」

腕の中のベルルは、気を失っている。
僕はゾッと、背筋が冷たくなるのを感じた。

ウー……と低いうなり声がどこからか聞こえる。あの工場に、まだ魔獣が居るのだ。
サンドリアさんやミネさん、ノーゴンさんはどうなったんだろう。

このままでは、僕もベルルも……
水の結界がミシミシと、崩壊を予感させる嫌な音を立てていた。

結界が壊れても、岩に潰されてしまう。
かといってあの大魔獣に見つかっても、殺されてしまう。

「ああ……ベルル……っ」

こんな時に、崩れた岩盤を吹き飛ばす程の力があれば。
あんな魔獣を、何て事なく倒す力があれば。

「だ……旦那……様……?」

「ベルル、大丈夫かい? どこも、怪我をしていないか?」

「ええ。だって、旦那様がずっと抱き締めてくれていたでしょう?」

ベルルはそう言って、力無く笑った。

「旦那様……泣いているの? どこか痛いの?」

彼女は僕の頬に触れ、涙を拭う。
僕はハッとして「いや大丈夫だ」と、自分の手のひらで顔を拭いた。

ベルルは起き上がる程の力も無く、ぐったりとしていた。
もう魔力が残っていないのだ。先ほど、召喚に失敗した時、全てを使い切ってしまった。

ミシ……ミシ……と、結界がどんどん脆くなっていく。

「旦那様……私、もう一度ロクちゃんを召喚してみるわ……」

ベルルは呟くように言って、指先を宙にかざす。
しかし、彼女の指から光が描かれる事も無く、裂傷の激しい指がただただ痛むようであった。

「ベルル、もう良いんだよ。……大丈夫だ、僕が必ず、君を助ける。君だけは、絶対に助ける」

「……旦那様?」

僕はそのまま彼女を包む様に抱き締めた。

もし、今彼女を救う事が出来るなら、僕は何だってしよう。
例えあの大魔獣に食われたって構わない。

僕はただ無我夢中で、自分の胸元にある、キュービック・ガーデンのペンダントを握りしめた。

「ベルル、愛しているよ。僕は嬉しいんだ……自分が、こんなに愛しいと思える人を妻に迎えた事が……」

「……旦那様? 私も……私だって旦那様を、世界で一番愛しているわ」

ベルルは声を震わせ、片方の手で僕の背の服を握る。
彼女を妻に迎え、世界で一番愛していると言ってもらえた。それは何より幸せな事だ。

助けたい。
彼女を死なせたくない。

僕がベルルの変わりに、命を捧げ、契約を背負い、肉も骨も魂も支払いますから、どうか、ベルルを……僕の妻を救ってください。


「ロークノヴァ!!!」


僕は、覚えていたその名を無我夢中で叫んだ。

旧魔王の、最強の大魔獣の名を。







弾ける様な強大な結界が、内側から水の結界を破り、岩盤や黒い箱を全て吹き飛ばした。
それはとても簡単な事だと言う様に。

それでも僕らはまだ、真っ黒な空間の中に居た。
これは、僕の目の前に立っている女性の、結界だろうか。


「たかが脆弱な魔力しか持ち合わせていない人間の雄が、この私を求めると言うのか」


上品でいて、艶っぽい声。
僕とベルルをおし潰そうとしていた全ての障害物を吹き飛ばす程の力を持つ、その張本人は、長い黒いマントを翻し僕を見下ろした。

真っ赤な、その鋭い瞳で。

まっすぐな黒髪に赤く艶やかな唇。
深紅の衣装を纏い、頭には曲を描き下を向く黒い角が生えている。

この世のものとは思えない、妖艶な美女である。

「あ……あなたが……ロークノヴァ……」

「いかにも」

彼女はスッと僕の前に降り立つと、その足で僕を結界の壁に押し付け、肩を踏む。

「いっ……!!」

先の尖ったピンヒールで肩を押され、思わず刺す様な痛みに顔を歪めた。

「小僧……私こそが、大魔獣ロークノヴァ・スカルカークである」

彼女は名乗り、愉快そうに瞳を細めた。

「お前は私に、全てを捧げる代わりに力を祈ったな。その意志に偽りは無いか?」

ジワジワと肩を踏まれ、そこから血が流れる。
僕は痛みに耐えながらも、彼女を睨む様に見て「ええ」と答えた。

「僕の命でも何でも、全部持っていってもらってかまわない。だから、ベルルをあの魔獣から……っ」

「……愚かな男だ。お前の命にどれほどの価値があると言うのか。食った所で美味いとも思えんな」

彼女はニヤリと笑いながら、僕の肩を思いきり、そのヒールで貫いた。
あまりの痛みに絶叫し、意識が飛びそうになる。でも、まだ駄目だ。僕は試されている。

「ほお。見かけの貧弱さに比べそこそこ精神力はあるようだ」

ロークノヴァは肩から足を退け、僕に顔を近づける。

「しかしまあ、私をここに呼び出したことは褒めてやる。出て来れなければ、私はベルル様をお守りする事は出来ないからな。……良いだろう、私はお前との契約に応じよう」

爪の長いその手で、僕の胸元にあるキュービック・ガーデンをコロンと転がした。
彼女の召喚を可能にしたのは、この四角い結晶のおかげだろうか。

ベルルが起き上がり、目の前に居るロークノヴァに呆気にとられていた。
彼女は、結界の壁際で肩から血を流している僕を見つけ、青ざめた様子で寄ってきた。

「さあ……この結界もそろそろ解き、表を見てみようか。我が弟の絶え絶えな息が聞こえてくるからな」

ロークノヴァはマントを翻し、黒い結界を解いた。
先ほどの工場が、落石した岩盤や積み上げられていた黒い箱によって半壊していた。天井は大きく穴を空け、ぽっかりと夜空を覗かせている。


サンドリアさんが人型の姿になって、大きく傷ついた様子で倒れていた。
その側で、サンドリアさんを蹴飛ばしているのが雷の大魔獣スペリウスであった。

水の結界を張り、僕らを助け、自分は勝ち目が無いと分かっていながらあの大魔獣の前に立ちはだかったのだ。
ミネさんがノーゴンさんに守られ、僕らのすぐ側の岩の窪みで気絶していた。

スペリウスはロークノヴァの魔力を察し、ハッとこちらを向いた。唸りながら、彼女を睨んでいる。
ロークノヴァもまた、スペリウスを睨み、ニヤリと高圧的に笑っていた。

「スペリウスよ……久しぶりだな。旧魔王様を裏切っただけでなく、我々の主を危機に晒し、我が妹を瀕死の状態に追い込み我が弟で蹴鞠をしてくれる。……ふふ、よほど死にたいらしいなあ」

一歩一歩、スペリウスに近寄る彼女の足下からは、黒と赤の、濁った帯の様な魔力が、その色を隠す事無く漏れでている。
流石のスペリウスも、間合いを取る様に後退し、毛を逆立て、周囲にいくつもの電磁波を飛ばす。

しかしそれらはロークノヴァに届く前に、黒い帯の様な魔力に食われ、消えてなくなった。


ブワッと大きな風がこちらまで届いたかと思ったら、荒々しい黒いドラゴンが、真っ赤な瞳をギラギラと輝かせ、この空間目一杯に翼を広げた。
その姿は今まで僕が見てきた魔獣と大きく異なり、格の違いと言うのを言葉で聞くより思い知らされる。

最高位大魔獣なのだ。


そこからの展開は目まぐるしく、僕には到底追えるものではなかった。
頭上の穴から光線のごとく飛び出し夜空を駆け、大きな虎と黒いドラゴンが雌雄を決するために争っていた。

ここから見える夜空では、無数の雷と黒く飛び散る様な炎が交互に確認出来たと言うだけ。


その後、すぐに決着はついたようだった。
空から雷が消え、白い大虎の大魔獣スペリウスは、ロークノヴァに破れ地面に叩き付けられた。

ロークノヴァが容赦なくとどめを刺そうとして、上空から急下降してきたが、途中思いとどまった様に急停止。

「………?」

黒いドラゴンは翼をはためかせ、人型へ変化する。
ロークノヴァの表情はいささか、物足りないと言う様な、冷めたものだった。

スペリウスは地面に叩き付けられた後、すぐに魔界へのゲートを開き、そちらへ戻されたようだった。
この大魔獣と契約した、魔界の誰かに。








その後の事はあまり覚えていない。
僕は、大魔獣ロークノヴァとの契約に、ちっぽけな体力魔力精神力を削られ、また肩に大きな怪我をしていた事から貧血気味でもあり、ほとんど意識を保っていられなかったからだ。

ベルルの「旦那様!!」という叫び声に答える事も出来ず、僕はその場で倒れ、意識を失ってしまった。

彼女の腕に抱かれながら。

N4527BC-121
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Sense121

 空腹度がすっからかんで動けない二人にサンドイッチを渡し、やっと自己紹介に入ることができた。

「空腹度のステータス管理能力が甘いのは、最初だから目を瞑るとしよう」
「はむ、はむ。これからよ! 次は同じ失敗しないわ」
「お手数掛けます」

 二人は、渡したサンドイッチを食べて落ち着いたところで、改めて自己紹介に入る。

「サンドイッチご馳走様。改めて自己紹介をするわ。私は、双子の姉のライナード。ライナで良いわ」
「それで、僕は弟のアルファード。僕もアルでお願いします」

 ライナとアルは、ミュウと大体背格好が同じようだ。二人の武器やセンスの構成は、テンプレートを踏襲した選択している。
 ライナの容姿は、ハニーブロンドで肩まで掛かる癖っ毛。少し吊り目がちな目元と無愛想な表情は、polo ralph
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気の強そうな感じがある。まぁ、口を開けば、きつい言葉が飛び出す。
 アルは、ダークグリーンの髪に少し細められた垂れ目と常に微笑を浮かべる。線の細い繊細な男子や割れ物のような印象を受ける。俺に協力を頼む当たり、外見に似合わず図太いのかもしれない。

「すまんが、俺の方は、訳があって名前は言えない。まぁ、好きに呼ぶと良い」

 二人は、額を合わせて、ひそひそ話をするのだが、内容はダダ漏れだ。

「所謂、ロールプレイ? 仮面のミステリアスも、お人好し要素が加わるとただの残念な人になるわよね」
「ライちゃん、色々教えてくれる先輩に失礼だよ。呼び方の方を考えようよ」
「先輩か、先生。後は師匠とか? うへっ、どれも似合わないわよ」
「言い過ぎだよ。尊敬の念すら籠ってないし……」

 二人は、論議を重ねて『師匠』という呼び方に決まった。それも、お遊びの意味合いが多分に含まれており、尊敬など微塵も感じさせない。

「師匠、師匠はどれくらい強いんですか?」
「俺自身は強くない。ステータスだけで見れば弱い部類。それを装備やアイテム、魔法で随時補っているだけだ」
「「へぇ~」」

 二人が、同時にやる気の無い感嘆を上げる。俺も相応のやる気で教えていくが。

「俺のスタイルは、一般的じゃないし独特だ。だから、同じやり方を強要しないし必要だと思えば、自分で率先して組み込めばいい。あと、俺も二人に合わせて時間は割かない。俺は俺のレベル上げする」
「分かったわ。無理に一緒に居て貰うんですもの。それくらいなら……」
「じゃあ、質問。師匠は、調教師なの? それとも短剣使いなの? 魔法使い。どれなの?」

 二人は、俺の肩に掛かる矢立と弓を視認していない様子だ。【認識阻害】の効果範囲は名前だけじゃなくて、外装や装備の認識を阻んでくれているようだ。
 二人の前で見せた物は、包丁一本。俺の少し後ろを付き従う二匹の幼獣。そして、魔法。

「俺は、どれでもあってどれでもない。戦闘は不得意だ。他に聞くことは」

 二人は、今は思いつかない。と言うので、二人の平均は、レベル7。俺たちは、パーティーを組み、二人のレベルに適切な場所に移動した。俺は、二人に同行してもレベルを上げられるセンス構成に変更した。


 所持SP18
【鷹の目Lv47】【俊足Lv6】【看破Lv7】【魔道Lv4】【地属性才能Lv22】【料理Lv31】【調教Lv13】【言語学Lv21】【毒耐性Lv6】【呪い耐性Lv6】

 控え

【弓Lv39】【長弓Lv15】【付加術Lv27】【錬金Lv39】【合成Lv36】【彫金Lv7】【調薬Lv37】【泳ぎLv15】【生産の心得Lv43】【登山Lv13】【麻痺耐性Lv6】【眠り耐性Lv6】【魅了耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【気絶耐性Lv6】【怒り耐性Lv1】


 センス装備から弓系と付加術を外し、言語学と毒、呪い耐性へと変更。メイン装備を包丁にして、アクセサリーには毒と呪い喚起の装備を使う。時間経過で発生する状態異常を耐えているだけで俺のレベルは上がるために、二人に合わせる必要もない。
 言語学だって、本を読んでいれば自然とレベルは上がる。普段の行動と何ら違いは無い。傍に二人居るか居ないかの違いだ。
 なお、借りた本のタイトルは『童話文庫』『武器事典・弓編』『魔法概論』という名前だけは仰々しいものだが、その実は、紙媒体にしたゲームの設定やサイドストーリー、装備や魔法の分類などの本だったりする。

 ただし、読むためには相当な言語学のレベルが必要で、内容も結構メタな物があったりする。
 ありきたりな何とか山の竜退治の童話では、退治した冒険者・アランがドラゴンを仲間と共に倒し、戦いの中で、弱点を突いて勝利した話は、弱点の描写が非常に凝っている。
 また、一角獣(ユニコーン)のリゥイや空天狐のザクロ。それに、リーリーのパートナーである不死鳥のネシアスなど、以前のキャンプイベントで出現した幻獣に関する童話があったりする。

 幻獣をモデルとしている童話などが流し読みだけでも幾つもの話を見つける事が出来た。面白い内容ではあるが、内容が難解だったり、OSOの世界観オリジナルの言い回しがあったりと、現在は解読して、自分で読み易いようにノートに書き写したりしているが、それは一人の作業。

 今野外でも読める本は、弓に関する参考資料で――。


「ほらっ! 【パリィ】で止まったわよ。今のうちに殴って!」
「えい! やっ!」
「……」

 ライナは、木の板を金属板で補強した盾。部分鎧。そして槍を構えており、アルは、棍棒のような武器を両手で握りしめて、スライムに振り下ろしている。
 はっきり言ってしまえば、連携も何もない泥臭い動きだ。
 まぁ、昨日始めたためにそういうのは当然だろう。そもそも、βテスターの古株であるミュウやセイ姉ぇ、タクとその他愉快な仲間たちは、最初から別次元だったような気がする。
 俺も最初は、こんな気持ちで見られていたんだろうな。と思い、感慨深く感じる。

「まだまだ。沢山動画を見て、イメージトレーニングしたのに……」
「ライちゃん、それで動けたら凄いよ」

 確かに、俺も最初は、ミュウにボロクソ言われたのを思い出し、仮面の下ではほろりと涙目になる。それと同時に、当時理由も分からずやっていた射撃のルーチンワークは、攻撃の最適化と応用技術を使う上での基礎になったのを思い出す。
 弓を持つ手と状況に合わせて矢やポーションを使う自由な左手。徐々に組み立てたスタイルを二人は、作っていけるだろうか。

「まぁ、連携が無くても、少しずつ覚えればいいか。対人戦と対MOB戦闘は、全く別だしな」

 そう一人呟いて、再び本を開く。
 武器事典を借りた理由は、ゲームにおける弓矢の扱い。正確には、矢自体の改造は可能かの確認のために、矢に関する記述を探した。
 意外と、毒の矢など、鏃に毒塗る行為に関する記述は見つかったが、それ以外。爆弾弓矢の記述は見つからない。
 代わりに、面白い矢を見つけたのだが。

「――ダート矢。ダーツの事か」

 弓矢のカテゴリーに入るのか疑問のあるが、列記とした矢の一種。分類は、投擲と弓矢の二面性を持つが弓を介さない矢である。
 ダーツは、もともと、兵士が夜の酒場で弓矢を使って木の樽に狙いを着けていたのが原型らしい。其れから、矢を短く加工して投げやすく安定性の増したものがダート矢となり、遊戯のダーツとなったのが大まかな流れだったと思うのだが……。

「……まぁ、ネタ装備だな。やっと見つかったか。欲しい情報」

 俺の見つけたのは、矢の直接の改良方法ではないが、それの基礎となる情報だ。矢に魔法を組み込む場合は、トレントウッドやそれ以上の霊木(れいぼく)が望ましい。とある。
 つまり、今まで木の枝から合成していた矢の材料の組み合わせ自体を考え直さなければいけない。それ以前に、今日逃げたトレントからトレントウッドから入手できるのだ。

「トレントを倒すか。それとも、リーリーに頼んで少し分けてもらうか……」
「やばっ! 囲まれた! アル、何とかしてっ!」
「えっ?! ちょっと――【ウィンド】、【ウィンド】!」

 スライムに囲まれ、槍を一心不乱にゼリー質に突き刺すライナと魔法を連発するアル。俺は、溜息を吐きながら、本をインベントリに仕舞い込み、包丁一本とレベル差で周囲に集まるスライムを瞬殺していく。

 二人は、囲まれた緊張感からの解放され、すぐには動きたくない様子だった。
 これは、前途多難である。と思って、見守ることにした。
  


N5011BC-29
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第7話 ジャミーンの勇者(前編)





 1

「|伯父御《おじご》。
 ご武運を」

 と、ゴドンが言った。
 バルドはうなずいた。
 ゴドンと村人に見送られ、バルドは出発した。
 徐々に馬の速度を上げていく。
 初めての山道を走るには速すぎる速度だ。
 だが、子どもの容態を思えば、薬は早いほうがよい。
 バルドの気持ちが伝わったのか、栗毛の馬は、首を前に突き出し、足を大きく後ろに蹴って、先を急ぐ。
 時折木の葉や草が鼻面を打つのも気にしない。
 馬は臆病な生き物だが、乗り手と心が通うとき、雄々しい生き物に変わる。
 荷物はすべてゴドンに預けたから、今のバルドは身軽である。
 人馬は一体となって山道を駆け下りて行った。





 2

 エグゼラ大領主領の東のはずれの村で、ある噂を聞いた。
 山を北に越えた集落で、ひどくうまいノゥレ料理が食える、というのだ。

 ノゥレなど、どこの湖沼にでもいる小魚だ。
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ぬるとした細長い体を持っている。
 うまい魚ではない。
 骨が多くて食べにくいうえに、泥臭い。
 食べてしばらくすると、何ともいえないえぐみのある後味が残る。
 だが、栄養はたっぷりだ。
 子どもでも簡単に獲れるから、貧しい家ではどこでもよく食べる。
 たくさん食べれば腹はふくれる。

 バルド自身も、小さいころ、よく食べた。
 騎士となってからも、大障壁近くの砦に冬のあいだ詰めているときは食べた。
 半分凍った泥の中で眠るノゥレは、貴重な食料だったのだ。
 とはいえ、うまいと思って食べたことはない。
 そのノゥレが美味な料理になる、という話にバルドは興味を引かれた。
 ゴドン・ザルコスは、

「どんなに上手に料理したところで、しょせんノゥレではありませんか」

 と、乗り気ではなかったが、構わず馬首を北に向けた。
 山を越えると深い谷があり、吊り橋が架かっていた。
 馬を置いて行くわけにもいかないので連れて渡った。
 暴れないように目隠しをして引っ張った。

「帰りには、もう一度ここを渡らねばならんのですなあ」

 と、ゴドンはため息をついている。
 一本道だから、集落には迷わず行き着けた。
 こんな所を馬に乗った武士二人が訪ねるなど、珍しいのだろう。
 ひどく注目を浴びてしまった。
 ノゥレを食べたいというと、一軒の小屋に連れて行かれた。
 貴重な現金収入が得られると分かり、人々の対応は丁寧だ。
 ピネンという名の老人が、料理してくれるという。

「ようも、こねえな所までお越しじゃったのう。
 ノゥレは、今獲りに行かせとるけん。
 お侍さんがたの口にあうような酒はねえんですけどのう」

 と言いながら出してくれた酒は、白く濁っており、柔らかく甘い味わいだった。
 穀物酒だ。
 この辺りに多いプランの実を|醸《かも》した酒だろう。
 バルドが、うまいぞ、と言うと、うさんくさそうに見ていたゴドンも、口をつけた。

「お。
 いけますな」

 と、まんざらでもない。
 二口、三口を味わったところで、ピネン老人は、何かの根のようなものをすりつぶしながら、

「ノゥレをのう。
 生で食べると、そりゃあうめえんですじゃ。
 なあんのいやみもありゃあせん。
 じゃけどのう。
 あとで必ず病気になりますけん」

 と言った。
 ノゥレは煮て食べるものであり、生で食べるなど考えもしなかった。
 あとで必ず病気になると断言するこの老人は、もしや試したことがあるのだろうか。
 ピネン老人は、何かの葉を数種類混ぜて、さらに器の中のものをすりつぶした。

「ノゥレはのう。
 襲われたり、つらい目に遭わされると、腹の中を苦うするんじゃ。
 その苦え汁が、あとでいやみになりますけん」

 バルドが椀の酒を飲み干すと、ピネン老人の孫だという少年が、お代わりをついでくれた。
 少し遅れてゴドンもお代わりをもらった。
 そうこうするうちに、次々とノゥレが届いた。
 集落の住人たちが総出で捕まえてくるのだから、あっという間に桶はノゥレで一杯になった。
 ピネン老人は、何度か水を替えてノゥレをきれいに洗うと、何かの根や葉をすりつぶしたものを、桶に注ぎ込んだ。

 興味を引かれたので、バルドは近寄って桶を見た。
 ノゥレは、黄色の何かを盛んにはき出している。

「これをはき出させてしもうたら、もうノゥレは苦うはならんですけん」

 と、ピネン老人は言った。
 訊けば、長年かけて自分でこの根や葉を見つけたのだという。
 何の木だか、何の葉だか、名前は今でも知らない。
 しばらくすると、ノゥレはもう何もはき出さなくなった。
 ピネン老人は、ノゥレをもう一度洗ってから椀で二杯すくい、鍋に入れた。
 穀物酒の樽から上澄みをすくい、その鍋に注いだ。
 ゴドンも興味を引かれたようで、まじまじと見つめている。
 鍋は火に掛けられた。
 火勢は強くない。

「ノゥレは、水から炊かにゃあいけん。
 いきなり湯にいれたら、暴れて身がざらざらになるんじゃ」

 と、ピネン老人は独り言のようにつぶやき、孫の少年に、

「もう出来とるじゃろう」

 と言った。
 少年は小屋を飛び出して隣に行き、すぐに戻って来た。
 手には椀を持っている。
 ピネン老人は、椀の中身を静かに鍋に入れた。

「ドゥェジャ鳥の卵と山芋で作ったプディングですけん。
 ちょうど卵があったけん、よかったですのう」

 それから徐々に火勢を強めた。
 まきを操る手つきには年期が入っており、巧みに火勢を調節している。
 酒が熱せられる香りが小屋に満ちた。

 驚くべきことが起こった。
 熱せられた酒の中で所在なげに泳ぎ回っていたノゥレたちが、プディングの中に潜り込んでいったのだ。

「人間でも、お天道さんが熱うなったら、日陰やら家ん中に入るけんのう」

 なるほど、そうだ。
 だが、プディングの中も熱いはずなのだが。

「山芋は、熱を散らすんじゃ。
 じゃけえ、煮立った酒より、プディングの中のほうが、ほんのちょっぴし熱うねえんじゃ」

 プディングの中から顔を出したノゥレもあるが、すぐに中に戻ってしまう。
 プディングが揺れている。
 中でノゥレたちが暴れているのだ。
 やがてプディングは揺れなくなった。
 ピネン老人は火勢を弱め、なおもプディングを煮た。
 じっと鍋を見ている。
 揺るぎのないその横顔は、まるで賢者のようだ。
 と思っていると、老人は、よし、と小さくつぶやいて鍋を火から下ろした。
 手際よくプディングを二つに切り分け、椀に盛ってテーブルに置いた。

「召し上がってつかあせえ」

 バルドとゴドンは、席についた。
 木さじでプディングをすくった。
 湯気が立っている。
 ふうふうと息を吹き付けて冷ましながら、一かじりを口に入れた。

 こんなプディングは、食べたことがない。
 よく煮込んであるから固いかと思ったが、まったく違う。
 ふるふるに柔らかい。
 柔らかいのに、しっかりした存在感がある。
 舌の上でじっくり味わったあと、口の中でつぶした。
 甘いともからいともつかない柔らかな味が広がった。
 バルドは思わず木さじに残ったプディングを全部口に入れた。

  おおお。

 何ともいえない食感だ。
 口腔が、そして舌の隅から隅までが、初体験の食感を楽しんでいる。
 喉が、早くこっちにも寄越せ、と要求している気がしたので、バルドは口の中のプディングを飲み込んだ。
 まったりとしたのどごし。
 芳醇な余香。
 これは、プディングに染み込んだノゥレのうまみなのだろうか。

 バルドは、プディングの中に大胆に木さじを差し込んだ。
 そして、たっぷりとノゥレが入っている部分をすくい取り、ふうふうと冷まして口に入れた。

  甘い!
  何という甘さじゃ。

 ノゥレ特有のぬるぬるした食感が、どこにもない。
 身は柔らかく煮上がり、極上の魚特有のざらっとした舌触りをみせて、口のなかでほぐれた。
 いまいましい小骨も、踊るように舌の上で溶け、味わいにアクセントを与えてくれる。
 うまみの塊だ。
 よくかみしめて飲み干せば、意外なほどのボリューム感がある。
 そして、あのいやな後味が、いつまでたってもやってこない。
 煮汁をすくいとって飲めば、酒臭さはどこにもなく、ノゥレのうまみを吸い取って最高のスープに仕上がっている。
 プラン酒の濁り酒を飲むと、これがまた一段とうまい。
 この料理とこの酒は、実によくひき立て合う。

 バルドは、ふとピネン老人を見た。
 立ち振る舞いを見ていると、どうも田舎で生まれ育った人間とは思えない。
 広い世界を知り、深い叡智を蓄えた人物。
 都会での上品な料理や作法にも通じた人物。
 そのように思えてしかたがない。

 この集落は、おそらく〈外れ者〉の集落だ。
 罪を犯した者の家族や、ケガレを得た者は、村の生活からはじき出される。
 そうした〈外れ者〉が集まって集落を作ることがある。
 隔離されることによって差別されずにすむのだ。
 ピネン老人は、どんな人生を歩んできたのだろうか。




 3

 二つの事件が起きた。
 吊り橋が切れた。
 荷物を積んだ押し車を乗せたとたん、切れたのだという。
 幸いにけがをした者はなかった。
 そして、ピネン老人の孫が毒蛇に噛まれた。
 バルドの手持ちにも、その薬はなかった。
 大人なら死ぬほどではないが、子どもにとっては命に関わる毒だ。

 村まで行けば、薬は分けてもらえる。
 だが、村に行く吊り橋は使えない。
 谷を降りてゆけば行けなくはないが、ひどく時間がかかる。
 幸いにもバルドとゴドンは馬を持っている。
 遠回りでもいいから道はないのか、と訊けば、一つだけあるという。
 東回りの道だ。
 だが、そこは、ジャミーンのテリトリーだという。

 ジャミーンは、亜人の中では小柄だ。
 人というより猿のような姿をしている。
 成人しても十二、三歳の人間ほどの身長しかない。
 木の皮や虫を常食にするため、〈虫食い〉などと呼んでさげすむ人間もいる。
 倫理観や生活習慣が人間とは異なるため、接触すれば争いになることが多い。
 人間の村や集落からこんなに近い場所にジャミーンのテリトリーがあるとは驚きだ。

 ジャミーンは、例外なく弓の名手だ。
 テリトリーに人間が踏み込んだことに気付けば、攻撃してくるだろう。
 四方八方から降ってくる矢をかわすことなどできない。
 だが、この子を救おうと思えば、それしか方法はない。
 バルドは、村に薬をもらいに行く役目を買って出た。





 4
  
 道は木々の生い茂る森に入った。
 栗毛の馬は、少しも疲れた様子を見せない。
 素晴らしい速度で森を突き進む。

 前方上方の木の上で、何かの気配がする。
 バルドは古代剣を抜いた。
 矢が飛んできた。
 剣で払う。

 いる。
 いる。
 いる。

 木々の上に、ジャミーンたちがいる。
 気付かれて取り囲まれる前に抜けてしまいたかったのだが、だめだったようだ。
 右から、左から、矢が飛んでくる。
 背中から飛んでくる矢が一番やっかいだが、はためかせたマントがある程度は矢を防いでくれている。

 ざくっ。

 左肩に矢が刺さった。
 肩当てに守られているので、深くは刺さっていない。

 ざくっ。

 背中に矢が刺さった。
 ちょうど鎧がない部分だ。
 動きが止まるほどの傷ではない。
 だが、次の瞬間。
 急に、かあっ、と体が熱くなり、視界がぐにゃりとゆがんだ。

  毒か!

 必死で手綱をにぎったが、やがてバルドの意識は闇に落ちた。






 
************************************************
8月4日「ジャミーンの勇者(後編)」に続く

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これもだった。いつも千春とプールに言っているからだ。
「泳いでるよ」
「それも大きいです。水泳は身体全体を使いますから」
「痩せるんだ」
「それに筋肉もつきます」
「何でもないようだけれど」
「それでもです。上城君は本当に変わってきてますね」
 その彼の変わってきている顔を実際に見て言うのだった。その真人の顔はとても温かい笑顔だった。その笑顔を彼に向けて。そのうえで話しているのだ。第七話 洋館の中でその十一

「太陽の光が大好きだから」
「そう。それにね」
「それに?」
「向日葵の皆は今楽しんでるだけじゃないよ」
「ええと。その他には」
「わかるよね。今の皆の考え」
「うん、これはね」
 彼等が何を考えているのかをだ。希望はだ。
 彼等を見上げながらだ。こう答えたのだった。
「喜んティンバーランド アウトレット
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でるね」
「どうして喜んでるの?」
「僕達に笑顔で見られて」
 それでだというのだ。
「喜んでるね」
「そうよ。笑顔ってね。皆感じるから」
「だからだね。そうだね」
「笑顔はね。誰が見ても嬉しいものだから」
 それでだというのだ。千春は。
 そしてだった。そのうえでだ。希望はだ。
 その千春も見てだ。言うのだった。
「笑顔も。今まではね」
「あまりなかったんだね」
「笑顔になれなかったよ」
 とてもだった。それは。
「友井君と。それとおばちゃんにだけはね」
「向けられたのね」
「本当に二人だけだったよ」
 それがこれまでの希望だった。笑顔はなかった。
 だがそれでもだった。千春は。

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搿¥盲啤ⅳ希?

「おまえ……やっぱり敵だー!」

 機嫌よさげに「アン!」と吼えながらチョコを食べ終えたラスカルは、清々しそうに夕焼けに染まる河原を走る。そしてそれを追いかける少女カカ。発端がチョコのわりには絵になるなぁ。

「ところで、あの。あなたの犬、チョコ食べちゃったんですけどいいんですか?」

「はい。毎日食べてますから大丈夫ですよ?」 

「待ちなさい。それは糖尿病とかなるから全然大丈夫じゃない。それにアレルギーとかあってだね」

 なぜか僕が犬の食生活について講義しているころ。

 カカは追いかけていた犬に追いつき、飛び掛った。しかし距離が足らなかったらしく、犬のヒップに激突してしまう。

 カカはそのまま河原の草原に倒れこんだ。ラスカルはカカの攻撃に驚いたらしく、同じく草原に寝転んでいた。

 それはまるで――河原でケンカしたあとに友情が生まれるようなシチュエーション。そう、「いい拳だったぜ」とか言いながら夕日を見上げる、どこが発端かは知らないが知名度の高いシーンだ。
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 だがカカは別に拳を振るったわけじゃない。だからこう言った。

「いい尻だったぜ……」

 セクハラオヤジかおまえは。



************************************************
 お話の中での注意を一つ。
 ラスカルがチョコを食べていますが、これは糖尿病の危惧以外にも中毒のおそれがあるため、犬にチョコをあげるのはやめましょう。病気の原因になります。
 というわけで今すぐラスカルの食生活を改めなさい、サカイさん。カカの天下13「お隣のOL事情」

「つまりですねー、やっぱりですねー、会社というのはつま

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Δ胜螭扦埂堡盲拼黏à郡巍!?
「そ、それで?」
源次郎はその先が気になる。

「それだけよ。」
「そ、それだけって???。」
「でもさ???、私って、どんな仕事してるように見えたのかしらねぇ~???。」
美由紀は源次郎の思いが分かっていて、わざと交差させるように言ってくる。

「ど、どんなって???。」
「普通のOLさん?」
「??????。」
「そ、それは、ないか???。」
美由紀は、自分の服装を改めて確認するようにしながら言う。

「だったら、やっぱりスーツ着てるでしょうからねぇ???。」
「??????。」
源次郎は答えようが無い。

確かに、美由紀の容姿や服装からして、ごく普通のOLをしているようにはとても見えない。
だったら、どんな風に見えるかと問われても、実態を知っている源次郎には想像ができない。

「それにしても、ビジネスホテルって、いつもこうなの?」
席に着いた美由モンクレー
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紀が、周囲を改めて見渡すようにして訊いてくる。

「ん? こ、こうなのとは?」
源次郎は問われた意味を確認する。
何のことを言われているのか分っていない。

「う~ん???、だからさ???。」
「ん?」
「こんなに男性ばかりなの? ってこと。」
美由紀は本当にそのことを疑問に思っているようだ。


(つづく)


第2話 夢は屯(たむろ)する (その1042)

「ど、どうなのでしょう? ぼ、僕も、こうしたビジネスホテルに泊まった事って殆どありませんからねぇ???。」
源次郎は、その点、正直に言う。

源次郎が泊まった経験があるのは、ユースホステルか民宿。
後は、全共闘の仲間と泊まった合宿所と呼ばれるプレハブだけだ。
何しろ金銭的に余裕がなか

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最新の長い時間で彼らの魅力は、ヨーロッパ、アジア、北アメリカを介してすべての道を広がっているのにユーモアジーンズは、デンマークに由来する。 最も慎重に地下の新しい音楽シーンに関わって、これらのジーンズは、より若々しい世代に適して大きくなっています。

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余談ジーンズから、ユーモアラベルはデザイナーアパレルの大規模な品揃えを作るのに役立ちます、これはTシャツ、シャツ、ジャンパー等を含む。

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ヌーディージーンズは、ファッションに乗る本物の持つ新進気鋭のデザイナーです。 彼らのジーンズは、ファッショナブルなファンキー、新しい、新鮮な、そして環境に優しい、すべての理想的です。 彼らはジーンズの幅広い品揃えを持っていますが、特定の個体は非常に奇妙として際立っている。 ジーンズは以前の少なくとも6ヶ月になるまでのジーンズのその範囲の人と一緒に、彼らは洗浄を提案しませんポップスターは彼らのステージ上の人格の一部としてファッションステートメントを作るためにサングラスを採用され続けています。 ミュージシャンの数はスニーカー メンズ ナイキ底本:「芥川龍之介全集 第一卷」岩波書店http://ameblo.jp/chuang19製品が偽造であるか新しいスケートボードの垣間見るの1998を利用するように修正して再提示された。 メーカー新タイトルは塊にも一人前、後(あと)は啜(すす)り泣きに沈んでしまった。すると今度はじょあんなおすみも、足に踏んだ薪(たきぎ)の上へ、ほろほろ涙を落し出した。これか 庭Peixiao、その荒涼とした、まっすぐな人の思い出の最高のいくつかのいくつかの悲しいことではない貧しい女性、数十人の言葉の歩道シリーズダンクSBAVEC UNジーンズ専用ベロアctelのexprimentationウーンまたは。 Rappelez-vousのqueのpeut TRE assez宇根teinteブリランテ

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第二十話 人怪その二十六

「それならばな」
「闘わないというのか」
「私もまた闘う相手は向かってくる者だけだ」
 死神は今の牧村の問いにこう返した。
「そういう手合いだけだ。そうでなければ」
「闘うことはないか」
「うむ。闘わない」
 この闘わないという言葉を強調さえする。
「送るのと闘うのはまた別だからだ」
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「それを聞いてわかった」
 牧村は死神の今の言葉を聞き彼の方を振り向かずに頷いた。
「そういうことだな」
「わかってくれたらそれでいい」
 死神もまた素っ気無く返す。
「私はそれ以上は求めないし欲することもない」
「あくまでそれだけか」
「そういうことだ。そしてだ」
 彼は牧村との話をこれで終わらせそのうえでまた紳士に顔を向けて言うのであった。
「貴様はこれで帰るのだな」
「戦いは見届けた」
 こう述べる紳士だった。
「私の役目はこれで終わった」
「ならば帰るのだな」
 死神はその彼を追おうとはしなかった。
「もうこれでな」
「そうさせてもらう。それではだ」
 紳士のマントが翻った。すると。チャンルー シルバー
 それで姿を消してしまった。後には何も残ってはいなかった。紳士は影一つ残すことなく何処かへとその姿を完全に消してしまったのであった。
 残ったのは牧村と死神だった。だが残った二人ももうここには何の用もなかった。
「帰るとするか」
 死神が牧村に声をかけてきた。
「これでな」
「ここにはもう何の用もない」
 牧村も今の死神の言葉に応えるようにして言ってきた。
「もうな」
「では帰るな」
「ああ」
 そして死神の言葉に頷くのであった。
「もうな。帰るとしよう」
「それでは私もだ」
 死神もそれは同じなのだった。彼は既に教会の礼拝堂に背を向けていた。最早ここには何の関心もないといった態度がそのまま出ていた。
「去るとしよう」
「いい礼拝堂だがな」
 牧村は今は礼拝堂の中を見回していた。落ち着いて見てみると確かに壮厳な造りであり実に神々しい礼拝堂であった。神聖さも実によく醸し出されている。
「もう帰るのか」
「私はこの宗教とは何の関係もない」
 キリスト教とは、ということであった。
「髑髏天使である貴様はどうか知らないがな」
「この宗教とはか」
「この宗教の者達がどう言っているかは知っている」 
 それは知っているというのである。
「だが」
「だが?」
「宗教も神も一つではない」
 これが死神の考えであった。
「一つではな。実際にこの宗教の神がいて私もいるな」
「確かにな」
 その死神が今目の前にいるからこそ。頷く牧村だった。
「今貴様はここにいる。実際にな」
「それを否定することはできない」
 死神はまた言うのであった。
「そういうことだ」
「そして俺も存在する」
 牧村は続いて己のことを考えそうして述べた。
「今ここにな」
「宗教は一つではない」
 死神の言葉は続く。

N1803G-50
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第四話 改造その四

「何が堕落なんだ。それは御前だけだ」
「本当に坂口安吾が嫌いなのね」
「最近は特にな」
「特になの」
「色々とあったからな」
 髑髏天使のことだがそれは決して言葉には直接出さないのだった。その辺りは用心していた。元々慎重な性格がここでも出ていた。
「だからな」
「ふうん、そういえば最近フェシングはじめたんだっけ」
「ああ」
 若奈のこの問いにははっきりと答える。
「少しな」
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「面白いの?フェシングって」
「やってみるとな。中々な」
 表情は変えないがそれでもこれは心のある言葉だった。
「面白いものだな」
「そうなの。まあ私は」
「テニス部はまだやってるのか」
「ええ、そうよ」
 若奈は牧村の今の問いに答えた。にこりと笑って彼に言葉を返す。
「私はやっぱりテニスが一番好きだからね」
「テニスもいいか」
「?何が?」
「いや」
 やはり髑髏天使のことは言わない。どうしても言うことはできないことだった。
「何でもない」
「そうなの」
「しかし。テニスは左右のフットワークだな」
「知ってるんじゃないの?」
 牧村の言葉がどうもわからないのだった。テニコーチ バッグ レガシースを少し知っていれば言うまでもないことだ。だが彼はそれを言い続ける。それがどうしてもわからないのだ。
「それは」
「ああ、まあな」
 また返事をするが少し曖昧な感じになっていた。
「そうだな。そっちも少しやってみるか」
「テニスも?」
「少しな」
「少しなって来期君」
 若奈は彼の話を聞くうちに怪訝な顔になって彼の名を呼んでみせた。
「どうしたの?テニスに興味があるの?」
「ああ、ある」
 また頷くがやはり返事は曖昧な感じである。
「左右のフットワークだな」
「また随分とこだわりがあるのね」
「フェシングはそこが問題になる。ラインが狭い」
「ええ、まあそうよね」
 何が何かわからないまま牧村の言葉に応える若奈だった。
「それはね。まあ」
「しかしテニスのそれを入れれば。かなり変わるか」
「フェシングにテニスを入れるの?」
「そうだな。そうするか」
 若奈の言葉は半分ぼんやりと聞いていた。考えは次第に髑髏天使に関することに集中していった。しかし自分ではそれには気付いていない。
「ここは。やはり」
「ちょっと来期君」
 若奈はここでまた彼の名を呼んだ。
「どうしたのよ、一体」
「どうした?」
「そうよ、おかしいわよ」
 口を尖らせて彼に問うた。
「今。考え事でもしてるの?」
「あっ、いや」
 この問い掛けに対してはまた曖昧な感じの返答になっていた。
「それはない。別にな」
「日本語も少しおかしい感じになってるし」
「そうか」
「そうよ。とにかく少しおかしいわよ」
「俺は別に」
「とにかく。テニスにも興味あるのね」
 若奈が問うたのはこのことだった。
「そっちにも。そうなのね」
「まあそうだな」
 今度は多少はっきりと答えることができた。

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第十二話 三国の盟約その一

                第十二話  三国の盟約
 雪斎は何時になくせわしなく動いていた。その彼を見てだ。氏真が言うのであった。
「和上、やはりここはか」
「はい、甲斐の武田ともです」
「手を結ぶのじゃな」
「左様、結ぶ手は一つだけとは限りませぬ」
「二つでもよいか」
「より多くともいいのです」
 こうも言うのだった。
「ですから」
「これで相模の北条と三国か」
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「そうです。そしてです」
 雪斎から氏真に話していく。
「我等はその同盟を後ろ盾にしてです」
「上洛か」
「その通りです。それを目指します」
「ふむ。さすればじゃ」
 上洛と聞いてだった。氏真のその公家そのままの細面が綻んだ。そうしてそのうえで雪斎に対してこう語ったのであった。おっとりとした感じの声でだ。
「この駿府にいる公家の方々も都に帰られるな」
「その通りです」
「よいことじゃ。そしてあの方々にも屋敷を建てられるし。それにじゃ」
「それに?」
「都ではとりわけ戦乱に喘いでいると聞く」
 氏真の顔がここで暗いものになった。
「それを終わらせ民に泰平をもたらすことができるな」
「あの、氏真様」
「何じゃ?」
「もしやと思いますが」
 氏真のそのおっとりとした言葉に危惧を感じてだ。それで彼に問い返したのである。
「都にあがれば将軍になることも夢ではありません」
「そうじゃな。我が今川はな」
「はい、そのことは」
「当然わかっておる」
 氏真はからからと笑ってそれはと答えた。しかしであった。
 彼はここでだ。こうも言うのだった。
「しかしそれは民に泰平をもたらす為であろう」
「はい、左様です」
「その為の座にしか過ぎぬ。まずは民よ」
 氏真の考えはここにはじまっていた。
「この駿河や遠江の様にじゃ。泰平にしなけcoach アウトレット バッグればならぬからのう」
「それがおわかりであればいいのですが」
「のう竹千代」
 氏真はここでだ。共にいる元康に声をかけた。
「そなたもそう思うな」
「はい、確かに」
 元康は畏まって氏真のその言葉に頷いた。そうしてそのうえであった。謹厳な口調でこう話すのだった。何処か堅苦しいものがそこにあった。
「そうでなければ。将軍となってもです」
「何の意味もない。麿もそう考える」
「そうであればよいのですが」
 雪斎は己の若い主の言葉にだ。いささか不安を覚えていた。この主は戦を好まない。戦国に向かぬこの気性にそれを感じていたのだ。
 それで言ったのである。だが今の彼はだ。
 若い主のことだけではなかった。家全体の為に動いていた。そうしてであった。
 武田と上杉の間に入ってである。和議を結ばせることに成功したのだ。
 その時に謙信とも信玄とも会っている。この時だった。
 謙信はその彼に対してだ。こう言ったのである。
「専横を極める信玄を放っておけというのですか」
「いえ、そうではありません」
 それは違うというのである。
「ここはです。民の為です」
「民の」
「左様、戦があり困るのは民です」
 その彼等だというのである。
「民をあまり困らせてはなりません。そして」
「そして?」
「上杉殿は何の為に戦われていますか」 
 このことを彼に問うたのである。
「それは何の為でありますか」
「無論義の為です」
 謙信の問いはそれしかなかった。
「その為にです」
「その義は民の為ですね」
「むっ」 
 その言葉にだ。謙信は止まった。

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